担当編集者が見た「クリシン・ワールド最終章」

なぜいま、世界史なのか? なぜ『最後の作品』が世界史なのか?

国家を領域ではなく、人の集合として考える

栗本氏が注目しているのは、ユーラシアの地を縦横無尽に疾駆していた遊牧騎馬民の存在。実際、中国史に登場するキォンヌ(匈奴)もチュルク(突厥)もシァンピ(鮮卑)もすべて遊牧騎馬民の国家です。メソポタミア文明の核になったシュメール人も、ユーラシアの草原からやって来た遊牧民の一派だったでしょう。​

「シュメール人は自分らを『人』と呼んでいたが、これも遊牧騎馬民族国家の特徴のひとつだ。国家を領域として捉えるのでなく、人の集合として考えるのは、基本的に遊牧民の価値観である。

具体的には南シベリアからスキタイ系の文化に伝えられた価値観である。もちろん、シュメールの方がいわゆるスキタイより古いものだが、十分にその原点が近似したものであることを科学的に予測させる」​

(第2章より抜粋)

たとえば、北満州に拠点を持っていたシァンピからは、北魏を経て隋・唐が生まれたほか、ジャンジャン(柔然)、チュルク(突厥)といった遊牧国家の建国にもつながっています。

中国史の土台を成す唐は北方遊牧民がつくった国家だったわけです。そもそも、その源流となったシァンピ(鮮卑)について、皆さんはどれほど注目してきたでしょうか?

クリモト世界史をひも解けば、隋や唐、もちろんもっと前時代の漢などよりも、シァンピこそが東アジア史(ひいてはユーラシア史)の形成にきわめて重要な役割を担っていたことが見えてきます。


あるいは、西ヨーロッパの成立に深く関与していたパルティア帝国も、遊牧騎馬民との深いつながりが指摘されます。

ローマ帝国と同時代に存在し、むしろローマを凌駕する先進地として繁栄していたこの大帝国が「アスカ」と呼ばれていたという本書のくだりには、きっと驚く人も多いでしょう。​

「……パルティア人もスキタイ人も、やや広い意味では同じ騎馬遊牧民であった。この人たちの中心はアスカ(アスク)人、またはサカ人で、文明はいったんこのアスカ人の帝国の手に渡り、そこからその一部ゲルマン人にヨーロッパを託すという形で進展していったのだ」​
(第3章より抜粋)
​​
​​このほかにも、現在の国際金融の担い手であるアシュケナージ・ユダヤ人の“本当のルーツ”であるカザール帝国、8〜10世紀に存在していた謎の草原の帝国・キメク汗国など、一般の歴史書ではお目にかかれない国名が世界史のキャスティングボードを握った大国として数多く登場します。​​

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